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福岡高等裁判所那覇支部 平成7年(行ケ)3号 決定

補助参加申出人 島袋善祐 外七七名

右代理人 伊志嶺善三 阿波根昌秀 島袋勝也 前田武行 三宅俊司 吉田健一 神田高 鷲見賢一郎 松島曉 稲生義隆 内藤功 関島保雄 瀬野俊之 野沢裕昭 小部正治 海川道郎 石川元也 太田隆徳 森下弘 梅田章二 伊賀興一 斎藤浩 西晃 長野真一郎 下東信三 岡村正淳 諌山博 吉村拓 中野和信 中村博則 小泉幸雄 松岡肇 永尾廣久 秋月慎一 田中利美 前田豊 儀同保 丹羽雅雄 大川一夫 中北龍太郎 井上二郎 中島光孝 松本剛 上原康夫 大久保賢一 河内謙策 青木護 瑞慶山茂 仲松正人 八尋八郎

異議申立人(原告) 内閣総理大臣 橋本龍太郎

右代理人 川勝隆之 外三三名

被参加人(被告) 沖縄県知事 太田昌秀

主文

一  本件補助参加の申出をいずれも却下する。

二  本件補助参加の申出に対する異議の申立によって生じた費用は補助参加申出人らの負担とする。

理由

第一本件補助参加申出の趣旨

原告の被告に対する地方自治法一五一条の二第三項に基づく職務執行命令裁判請求事件(当庁平成七年(行ケ)第三号)において、補助参加申出人らが被告を補助するためにした民事訴訟法(以下「民訴法」という。)六四条の参加の申出をいずれも許可する。

第二事案の概要

一  一件記録により認められる前提事実

1  那覇防衛施設局長は、国が使用権限を取得してアメリカ合衆国軍隊に使用を許している沖縄県所在の施設及び区域の土地(以下「駐留軍用地」という。)のうち使用期間の満了時期が迫っている二五四筆について、右期間満了後も引き続き駐留軍用地として提供する必要があるとして、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(以下「特措法」という。)四条一項に基づき、原告に対し、使用認定申請をし、原告は、平成七年五月九日、同法五条に基づき、右二五四筆の土地の使用の認定(以下「本件使用認定」という。)をした。

2  那覇防衛施設局長は、本件使用認定告示後、使用裁決手続を経る必要のある二五二筆について特措法一四条一項、土地収用法三六条所定の土地調書及び物件調書の作成に着手した。

3  補助参加申出人らは、右二五二筆の土地所有者の一部であり、そのうち別紙被告補助参加申出人目録記載一ないし二四の補助参加申出人ら(以下「本件補助参加申出人ら」という。)は、その所有地について、同条二項の立会い又は右調書への署名押印をしておらず、かつ、同条四項による右調書への署名押印がされなかった者であり、その余の補助参加申出人ら(以下「件外補助参加申出人ら」という。)は、同条三項に基づき右調書の記載事項が真実でない旨の異議を付記して署名押印した者、又は、その所有地について同条二項の立会い若しくは右調書への署名押印をしなかったが、同条四項による右調書への署名押印がされた者である。

4  本件訴えは、原告が、地方自治法一五一条の二第三項に基づき、被告は、那覇防衛施設局長が、特措法一四条一項により適用される土地収用法三六条の規定に基づき、使用裁決手続を経る必要のある土地で同条二項ないし四項による署名押印がされなかったもの(以下「本件各土地」といい、本件補助参加申出人らはその所有者らの一部である。)に係る土地調書及び物件調書(以下「本件調書」という。)を作成するにつき、同条五項に基づいて、立会人を指名し、ある一定の期限内、時間内及び場所において署名押印させよとの裁判を求めたもの(以下「本件訴訟」という。)である。

二  参加の理由(補助参加申出人ら)

1  行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)には、機関訴訟への民訴法六四条の準用を排除する規定はなく、また、行訴法四三条三項が同法二二条を準用していないことは民訴法六四条の準用を排斥するものではないから、行訴法七条により、機関訴訟である本件訴訟にも民訴法六四条は準用される。

補助参加をするには独立した権利主体間の訴訟が存在する必要はなく、参加申出人自らを当事者としない訴訟が訴訟として存在していれば足りる。

法律又はこれに基づく政令によりその権限に属する国の事務(以下「国の機関委任事務」という。)の管理執行は、実質的には、住民に選出された地方公共団体の長により当該地方公共団体の人的物的手段が使用されその費用負担の下でされるもので、当該地方公共団体そのものの活動という性格を有しているから、地方自治法一五一条の二第三項に基づく職務執行命令訴訟は、国の行政機関相互間の争訟という面のほかに国と地方公共団体との間での独立した権利主体間での争訟という面を併せ持っており、特に当該国の機関委任事務が実質的には都道府県の自治事務と解する余地がある場合には後者の性格が強い。したがって、右訴訟が単なる国の内部的な機関相互間の紛争に係るものであることを理由に右訴訟への第三者の補助参加は本来予定されていないと断定することはできない。

また、職務執行命令訴訟において、判決が第三者に法的な影響が生ずるかどうかは、結局、履行が命ぜられるべき当該事項の内容によるのであって、それが第三者の法的地位に影響を生ずる行為である場合には、当該行為の履行を都道府県知事に命ずる点においても、また、不履行の場合の主務大臣の代執行を適法ならしめる点においても、第三者の法的地位に影響を生ずるのであって、民訴法の補助参加の可否はもっぱら個々の訴訟について、第三者との利害関係の存否によって判断されるべきであり、その点を無視して、右訴訟にはそもそも民訴法上の補助参加の規定は準用されないと解することはできない。

補助参加人と被参加人との間に参加的効力が生じる余地がないことを理由として補助参加の利益を否定することはできない。

2  民訴法六四条の「訴訟の結果につき利害関係を有する」とは、当該訴訟の判決主文における訴訟物に対する判断について法律的利害関係を有する場合にとどまらず、判決の理由中の判断について法律的利害関係を有する場合も含まれると解されるところ、補助参加申出人らは、次のとおり右利害関係を有する。

すなわち、本件訴訟の主要な争点は、特措法の違憲性、同法に基づく使用認定の違法性、土地収用法三六条の違憲性、二〇年を超える期間地主の意に反して土地を使用することの違法性等であるところ、これらの点について審理がされ、被告に不利な判断がされると、その後の収用委員会における裁決手続において補助参加申出人らに不利な影響を及ぼす。

3  仮に、民訴法六四条の「訴訟の結果につき利害関係を有する」とは、当該訴訟の判決主文における訴訟物に対する判断について法律的利害関係を有する場合にとどまると解されるとしても、本件補助参加申出人らは、次のとおり右利害関係を有する。

(一) 被告が敗訴すると、被告は立会人を指名して本件調書に署名押印させることを義務づけられ、これを拒否したとしても、原告により右手続が代執行されることになり、本件調書の作成が完了する。これは、被告敗訴の判決主文を論理的に前提とする法律上の影響である。そして、本件調書の作成により、本件補助参加申出人らは、右調書の記載事項についてはそれが真実に反していることを立証しない限り右事項の真否について異議を述べることができなくなり(土地収用法三八条)、同法三六条二項の立会権、調書に署名押印し若しくはこれを留保する権利、同条三項の異議を附記する権利を侵害され(なお、本件補助参加申出人らは、右権利を放棄したものではない。)、又は、後の収用委員会の審理において、これらの手続的瑕疵を争うことができなくなる。

(二) また、被告敗訴により本件調書の作成が完了すると、本件補助参加申出人らは、本件各土地について使用裁決申請がされ、一定の手続を経て使用裁決手続開始の登記がされると土地収用法四五条の三によりその土地所有権について制限を受け、さらに一定の手続を経て使用裁決を受けることになり、その財産権や平和的生存権が侵害されるという重大な不利益を被ることになる。

三  参加申出に対する異議の理由(原告=異議申立人)

1  本件訴訟は、機関訴訟であり、国の内部的な機関相互間の権限の行使に関する紛争についての訴訟であって、主務大臣である原告の国の機関である被告に対する職務執行命令が地方自治法、特措法、土地収用法等に合致するかどうかが問題となるにすぎず、他人間の訴訟、すなわち、独立した権利主体間の訴訟ではない。このように、国の一行政機関にすぎない被告のため、補助参加人ら第三者が本件訴訟に介入することは、この訴訟の本来の性質と相容れず、補助参加制度が本来予定するものではない。このことは、本件訴訟の当事者は権利主体ではないから、参加人と被参加人との間に権利義務関係が生じることを想定できず、参加的効力が生じる前提を欠くことにかんがみても明らかである。

2  仮に、地方自治法一五一条の二第三項に基づく職務執行命令訴訟に民訴法六四条が準用されるとしても、次のとおり本件補助参加申出は参加の理由がない。

(一) 同条の「訴訟の結果につき利害関係を有する」とは、判決主文によって示される裁判所の判断によって、私法上又は公法上の権利義務又は法的地位に影響を受けることを意味し、判決理由中の判断について利害関係を有する場合は含まれない。

(二) 本件訴訟では、行政権の内部的な行為の適否が判断されるにすぎないから、本件訴訟の結果が、私人である補助参加申出人らの私法上又は公法上の権利義務又は法的地位に直接影響を及ぼすことはない。

(三) 件外補助参加申出人らは、本件各土地の所有者ではないから、本件訴訟の結果により事実上の影響を受けるというにすぎず、これをもって訴訟の結果につき法律上の利害関係を有するということはできない。

(四) 本件補助参加申出人らが参加の理由3で主張する不利益は、被告敗訴の判決主文によって示された判断によって、本件補助参加申出人らの私法上又は公法上の権利義務又は法的地位が影響を受けたために生じたものではなく、事実上生じた結果にほかならない。すなわち、被告は、敗訴判決の主文により立会人を指名し、本件調書に署名押印させることを命じられ、被告がこれを拒否したときは、原告が被告に代わってこれを行うことができるが、これは右判決の直接の効果ではなく、地方自治法一五一条の二第八項により原告にその権限が付与されたことによるものであり、原告がその権限を行使した結果、本件調書が形式的に整うことになるだけのことである。

(五) 本件補助参加申出人らは、本件調書が作成されると、原則として本件調書の記載内容について異議を述べることができなくなるが、これは本件補助参加申出人らが本件調書を作成する際立ち会って異議を述べておけば当然に回避できたはずであるし、本件調書の記載内容が真実に反しているのであれば、収用委員会の審理の過程でその旨の立証をすることは何ら妨げられないのであるから、本件調書が作成されることによって、本件補助参加申出人らの権利が侵害されるわけではない。

また、土地収用法四五条の三による効果は、防衛施設局長が使用裁決の申請をし、収用委員会が右申請を適式と認めて、裁決手続開始の登記の嘱託をしたことによって生じた効果であって、被告敗訴の判決主文の効果によるものではない。

さらに、本件補助参加申出人らの所有地について使用裁決がされるかどうかは、収用委員会が、防衛施設局長の使用裁決申請を受け、右申請が関係法令の定める要件に適合すると判断するか否かにかかっているのであって、本件判決の主文の効果によるものではない。

第三当裁判所の判断

一  原告と被告間の本件訴訟は、原告が、地方自治法一五一条の二第三項に基づき、主務大臣として、国の機関としての被告の権限に属する国の事務(国の機関委任事務)の管理執行が同条一項にいう「法令に違反するものがある場合又はその国の事務の管理執行を怠るものがある場合」に該当するとして、被告に対し当該違反を是正し又は当該怠る事務の管理執行を改めることを命ずる旨の裁判を求めた職務執行命令訴訟であり、国の機関相互間における権限の行使に関する紛争についての訴訟として行訴法六条の機関訴訟に該当するものである。

行訴法七条は、行政事件訴訟に関し、同法に定めがない事項については、民事訴訟の例によると規定するが、右規定は、行政事件訴訟に関し、同法に定めがない事項については、その性質に反しない限り民事訴訟に関する規定が準用される趣旨と解される。そこで、民訴法の補助参加の規定が機関訴訟である地方自治法一五一条の二第三項に基づく職務執行命令訴訟に準用されるかどうかについて検討する。

都道府県知事は、当該都道府県の執行機関として、独自に当該都道府県に属する事務全般の執行に当たるものであるが、同時に、法律又はこれに基づく政令によりその権限に属する国の事務(国の機関委任事務)を管理執行する国の機関としての地位をも有している(地方自治法一四八条一項)。後者の関係では国の主務大臣は都道府県知事の上級行政機関として位置付けられ、都道府県知事は主務大臣の指揮監督を受けることになる(同法一五〇条)。したがって、主務大臣は、都道府県知事が国の機関委任事務の管理執行に当たり法令の規定や主務大臣の処分に違反する場合又はその管理執行を怠る場合に該当すると判断した場合には、都道府県知事に対し指揮監督権を行使して当該違反を是正させ、又はその管理執行を改めさせるなど、国の行政組織の内部の問題としてこれを解決すべきものである。しかし一方、都道府県知事は当該都道府県の住民によって直接に選挙され、当該都道府県に属する事務全般についての独自の執行機関でもある。そこで、主務大臣と都道府県知事との間に国の機関委任事務の管理執行について意見の対立がある場合には、このような都道府県知事の有する本来の地位の自主独立性の尊重と国の機関としての地位に対する国の指揮監督権の実効性の確保との間の調和を図るため、立法政策上、訴訟の形式を採用し、国の機関委任事務の管理執行について主務大臣の都道府県知事に対する指揮監督権の行使の一態様として発せられた当該違反を是正し又はその管理執行を改めるべき旨の命令が適法であるか否かを裁判所に判断させることによりこれを解決することとし、機関訴訟としての地方自治法一五一条の二第三項の職務執行命令訴訟が設けられたのである。したがって、右の職務執行命令訴訟は、いわば国の行政組織内部における上級機関から下級機関に対する国の機関委任事務の管理執行についての純然たる指揮監督権の行使の過程に係る事柄を問題とするものであり、被告敗訴の判決の結果も、国の行政組織内部において国の機関委任事務の管理執行について主務大臣から都道府県知事に対し指揮監督権が行使されるにとどまるものであり、そのこと自体は私人の法的地位に何らの影響も与えるものではない。そうすると、このような性質を有する地方自治法一五一条の二第三項に基づく職務執行命令訴訟に私人が参加することは予定されていないというべきであり、右訴訟にはその性質上民訴法の補助参加の規定は準用されないと解するのが相当である。国の機関委任事務の都道府県知事による管理執行の実態が参加の理由1の主張のとおりであるとしても、そのことにより右訴訟の構造、性質が変容するものではなく、右結論に消長を来さない。

以上のとおりであるから、地方自治法一五一条の二第三項に基づき提起された本件訴訟への補助参加の申出である本件補助参加の申出は不適法を免れない。

二  仮に、地方自治法一五一条の二第三項に基づく職務執行命令訴訟に民訴法の補助参加の規定が準用される余地があるとしても、次のとおり補助参加申出人らには補助参加の利益はないと解される。

すなわち、民訴法六四条の「訴訟の結果につき利害関係を有する」とは、訴訟上の請求について判決主文によって示される裁判所の判断により、その私法上又は公法上の法的地位に法律上の影響を受けることをいうものと解されるところ、被告敗訴の判決の結果は、被告に対し本件調書の作成について立会人を指名しこれに署名押印させよとの命令が発せられることにより国の行政組織内部において右国の機関委任事務の管理執行について上級機関である原告から被告に対し指揮監督権が行使されるにとどまるのであって、本件各土地の所有者でない件外補助参加申出人らの法的地位に法律上の影響を及ぼすものでないことはもちろん、右判決に基づき被告又は原告が右事務を行うまでは本件補助参加申出人らの私法上又は公法上の法的地位にも何ら法律上の影響を及ぼすものではないから、結局、補助参加申出人らは本件訴訟の結果につき利害関係を有するものということはできない。

補助参加申出人らは、被告敗訴の判決がされると、参加の理由3に挙示する事態の推移に伴い権利等を侵害されるおそれがあると主張するが、仮にそのような事態の推移又は権利等の侵害があるとしても(なお、補助参加申出人らは、本件調書の作成により、後の収用委員会の審理において、その主張に係る手続的瑕疵を争うことができなくなると主張するが、調書の作成それ自体が右の効果をもたらすものではない。)、これらは本件訴訟の被告敗訴の判決による法律上の影響ではなく、右判決に基づき被告又は原告が右事務を行うことによる法律上又は事実上の影響にすぎないのであって、いずれも補助参加の理由となるものではない。むしろ、その主張のような権利等の侵害については、補助参加申出人らは、使用認定及び使用裁決等に対する抗告訴訟など個人の権利利益の保護を目的とする訴訟、収用委員会における裁決手続の審理、土地収用法三六条三項の異議の付記等を通じて対処していくべきであって、これをもって本件訴訟に補助参加する利益を基礎付けることはできないというべきである。

三  結論

よって、本件補助参加の申出はいずれも不適法であり、仮に適法であるとしても参加の理由がないから、本件補助参加の申出をいずれも却下することとし、本件補助参加の申出に対する異議の申立によって生じた費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九四条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 坂井満 裁判官 伊名波宏仁)

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